子がその父母から分離されないことが子にとっての最善の利益

事件番号

 平成26(行ウ)205等

事件名

 退去強制令書発付処分等取消請求事件

裁判年月日

 平成27年6月16日

裁判所名

 東京地方裁判所

分野

 行政

判示事項

 不法入国した外国人の夫及び不法残留の状態にあるその妻及び子に対し,出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決をするに当たり,これらの者の在留を特別に許可しなかったことが,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法であるとされた事例

裁判要旨

 法務大臣の権限の委任を受けた地方入国管理局長が,不法入国したバングラデシュ人民共和国籍の夫及び不法残留の状態にあるその妻及び子に対し,出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決をするに当たり,これらの者の在留を特別に許可しなかったことは,以下の(1)~(3)など判示の事情の下では,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法である。
(1)夫が,不法入国後に我が国の特定疾患治療研究事業対象疾患である潰瘍性大腸炎に罹患していたところ,国籍国に帰国した場合,5-ASA製薬等の適切な薬剤を必要な数量入手して効果的な治療を継続すること,症状が再燃した場合又は重症化して外科的措置が必要となった場合に適切に治療を行うことにはいずれも困難が伴う。
(2)上記裁決の当時,子が停留精巣に罹患しており,国籍国に帰国した場合,早期に手術又は治療を受けることができない結果,深刻な事態が生じていた可能性が高いことに加え,同裁決後,子が上記手術を受けたものの,定期的な経過観察等の適切な治療を受けることができるかについて疑念がある。
(3)子がその父母から分離されないことが子にとっての最善の利益であるところ,妻が本件裁決の当時4歳であった子の主たる監護養育を担当していた。

全文

ボリビア人である母及び本邦で出生した幼年の子らに特別に在留を許可すべき事情があるとはいえないと判断したことにつき,違法とされた事例

事件番号

 平成25(行ウ)324等

事件名

 退去強制令書発付処分取消等請求事件

裁判年月日

 平成26年5月30日

裁判所名

 東京地方裁判所

分野

 行政

判示事項

 入国管理局長が出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく異議の申出は理由がない旨の裁決をするに当たり,ボリビア人である母及び本邦で出生した幼年の子らに特別に在留を許可すべき事情があるとはいえないと判断したことにつき,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法があるとされた事例

裁判要旨

 入国管理局長が出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく異議の申出は理由がない旨の裁決をするに当たり,ボリビア人である母及び本邦で出生した幼年の子らに特別に在留を許可すべき事情があるとはいえないと判断したことにつき,子らの父は日系3世であって定住者の資格で本邦に在留している者であるから当該子らは定住者の資格を取得し得る立場にあり,入管当局からの示唆を受けて本国において父との法的な親子関係の確定の手続を進めていたにもかかわらず,その完遂を待つことなく上記判断をしたことは,社会通念上著しく妥当性を欠くこと,このことを踏まえれば,日系3世でありかつ子らの監護養育に不可欠の存在である母に関する上記判断についても,重要な前提を誤ったものとなることなどから,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法があるとした事例

全文

安定かつ成熟した婚姻関係の実態があったにもかかわらず,控訴人にとって不利な情状のみを殊更重視したとして,違法を認め,同処分を取り消した事例

事件番号

 平成28(行コ)94

事件名

 退去強制令書発付処分等取消請求控訴事件

裁判年月日

 平成29年9月28日

裁判所名・部

 名古屋高等裁判所  民事第4部

結果

 

原審裁判所名

 名古屋地方裁判所

原審事件番号

 平成27(行ウ)131

原審結果

 棄却

判示事項の要旨

 不法入国をしたイラン国籍を有する外国人男性に対し,法務大臣から権限の委任を受けた入国管理局長がした出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決及び入国管理局主任審査官がした退去強制令書発付処分につき,控訴人とブラジル人女性(日本人の子として「日本人の配偶者等」の在留資格を有する。)との間に安定かつ成熟した婚姻関係の実態があったにもかかわらず,その実態を十分に把握せず,又は同関係及び上記処分による控訴人ら家族等の不利益を軽視する一方で,控訴人にとって不利な情状のみを殊更重視したとして,裁量権の範囲を逸脱又は濫用した違法なものであることを認め,同処分を取り消した事例

全文

中国女性と婚姻関係にある同国国籍の男性について,退去強制令書発付処分が取り消された事例

事件番号

 平成28(行ウ)288

事件名

 退去強制令書発付処分取消等請求事件

裁判年月日

 平成29年6月16日

裁判所名

 東京地方裁判所

分野

 行政

判示事項

 中国残留邦人3世の中華人民共和国国籍の女性と婚姻関係にある同国国籍の男性について,出入国管理及び難民認定法50条1項に基づき在留特別許可をしないで同法49条1項の異議の申出には理由がないとした地方入国管理局長の裁決が取り消された事例

 

裁判要旨

 中華人民共和国国籍の男性が,「投資・経営」の在留資格で本邦に在留中に傷害事犯を起こした後,中国残留邦人3世で「定住者」の在留資格で本邦に在留する同国国籍の元妻と再婚して「定住者」の在留資格への在留資格変更許可を受け,傷害事犯につき執行猶予付き懲役刑判決の確定後,在留期間更新申請を不許可とされたが,その後も本邦に滞在したとして不法残留の退去強制事由を認定され,口頭審理を経て,出入国管理及び難民認定法50条1項に基づく在留特別許可をしないで同法49条1項の異議の申出には理由がない旨の地方入国管理局長の裁決を受けた事案について,以下の(1)ないし(4)などの事情の下では,同裁決に際して同男性の在留を特別に許可しないとした判断は,全く事実の基礎を欠くというべき部分や,事実に対する評価が明白に合理性を欠くというべき部分があり,社会通念上著しく妥当性を欠くものであったことが明らかで,同裁決には裁量権の範囲をこえ又はその濫用がある違法があったとして,これが取り消された事例

(1) 同男性は,在留期間を遵守して適法な在留資格を得ようとする意思はあったものと認められ,その不法残留は,在留資格制度を軽視したものとはいえず,強い悪質性があるとまでいうのは困難である。

(2) 同男性の傷害事犯の犯情は悪質で,当時の在留状況が良好であるとはいえないと判断されたとしても不合理であったとはいえないが,傷害事犯後,それ以前とは価値観や人生観,生活態度を根本的に変容させて粗暴傾向が有意に減退していたにもかかわらず,同裁決においてこれを適切に認定していなかったことがうかがわれる。

(3) 同男性の妻との再婚が傷害事犯を契機とするもので再婚後裁決通知までの期間が3年に満たないとしても,再婚後の婚姻関係は,同男性が家族優先の価値観を持つに至ったことを妻が評価するなどして,夫婦相互に家族としての重要性を再認識するに至っていて,離婚前の10年間の婚姻期間中よりも強固な信頼関係に支えられたものに昇華していることがうかがわれ,真摯で安定かつ成熟した夫婦関係として評価すべきものと考えられ,当該再婚が在留資格変更申請を有利に進めることを目的としたものにとどまると評価することは合理的とはいえない。

(4) 同男性夫婦間の実子らは,中華人民共和国国籍ではあるが,本邦で出生,成育し,専ら日本語で公教育を受けてきていて現に中等教育機関に在学し,同男性も,本邦への定着性が高い中,離婚し別居していた期間を除きこれらの子を扶養,監護してきているところ,今後,子らが本国で継続的に生活することは現実的ではないという側面が強い。

全文

「アラブの春」以降に反政府デモに参加したクルド人が,「難民」に当たらないとされた事例

事件番号

 平成27(行ウ)158等

事件名

 シリア難民不認定処分無効確認等請求事件

裁判年月日

 平成30年3月20日

裁判所名

 東京地方裁判所

分野

 行政

判示事項

 1 シリア・アラブ共和国の国籍を有する外国人で,いわゆる「アラブの春」以降に反政府デモに参加したクルド人が,出入国管理及び難民認定法2条3号の2にいう「難民」に当たらないとされた事例

2 シリア・アラブ共和国の国籍を有する外国人で,政府軍と反政府武装勢力の衝突が多い南部ダルアー県に居住していた者が,出入国管理及び難民認定法2条3号の2にいう「難民」に当たらないとされた事例

 

裁判要旨

 1 シリア・アラブ共和国の国籍を有する外国人で,いわゆる「アラブの春」以降に反政府デモに参加したクルド人は,①シリア政府が平和的な反政府デモに参加したクルド人をそのような理由のみで迫害したとか迫害しようとしていると認めるに足りないこと,②同人が参加したデモが数百人から1000人程度の規模であり,行われた地域も反政府活動の要所であると認めるに足りないこと,③血縁集団の部族長の家系に属する同人の参加によりデモの参加者がどの程度増加したかを認めるに足りる的確な証拠がないことなど判示の事情の下においては,出入国管理及び難民認定法2条3号の2にいう「難民」に当たらない。

2 シリア・アラブ共和国の国籍を有する外国人で,政府軍と反政府武装勢力の衝突が多い南部ダルアー県に居住していた者は,①シリア政府がダルアー県の出身者ないし居住者一般を迫害したとか迫害しようとしていると認めるに足りないこと,②同人が予備役の招集を受けたことを認めるに足りる客観的な証拠がなく,同人も難民認定手続において予備役の召集を受けたとは供述していないこと,③同人が反政府デモに参加したとか,そのことを理由に身柄を拘束されたことがあるとは認められないことなど判示の事情の下においては,出入国管理及び難民認定法2条3号の2にいう「難民」に当たらない。

(参考法令)
出入国管理及び難民認定法2条,61条の2

全文

イスラム教からキリスト教に改宗した外国人について「難民」に該当するとされた事例

事件番号

 平成30(行ウ)287

事件名

 難民不認定処分取消等請求事件

裁判年月日

 令和元年9月17日

裁判所名・部

 東京地方裁判所

結果

 

原審裁判所名

 

原審事件番号

 

原審結果

 

判示事項の要旨

 イラン・イスラム共和国の国籍を有し,イスラム教からキリスト教に改宗した外国人について「難民」に該当するとされた事例

全文

内縁としての夫婦関係が成立していたにもかかわらず,控訴人を帰国させることは,裁量権の範囲を逸脱又は濫用した違法なものとした事例

事件番号

 平成29(行コ)49

事件名

 退去強制令書発付処分無効確認等請求控訴事件

裁判年月日

 平成30年4月11日

裁判所名・部

 名古屋高等裁判所  民事第4部

結果

 

原審裁判所名

 名古屋地方裁判所

原審事件番号

 平成28(行ウ)64

原審結果

 

判示事項の要旨

 不法残留のフィリピン国籍を有する外国人女性である控訴人に対し,法務大臣から権限の委任を受けた入国管理局長がした出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく控訴人の異議の申出には理由がない旨の裁決及び入国管理局主任審査官がした退去強制令書発付処分につき,控訴人と永住資格を有する日系2世のブラジル人男性との間に安定かつ成熟した内縁としての夫婦関係が成立していたにもかかわらず,これを看過し,ひいては控訴人をフィリピンに帰国させることによる控訴人や内縁の夫が受ける重大な不利益に想到することのなかった一方で,控訴人の不法残留や不法就労等をことさら重大視したものとして,裁量権の範囲を逸脱又は濫用した違法なものであり,その違法性は重大かつ明白なものであると認め,同裁決及び同処分の無効確認請求を認容した事例

全文

在留特別許可を付与しなかった法務大臣から権限の委任を受けた入国管理局長がした裁決が,適法とされた事例

事件番号

 平成20(行コ)146

事件名

 在留特別許可処分義務付け等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成19年(行ウ)第227号)

裁判年月日

 平成21年3月5日

裁判所名

 東京高等裁判所

分野

 行政

判示事項

 1 在留特別許可の義務付けを求める訴えの性質2 日本国籍を有する女性と約16年間にわたる共同生活を続けたガーナ共和国国籍を有する男性がした出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく異議の申出を棄却し,在留特別許可を付与しなかった法務大臣から権限の委任を受けた入国管理局長がした裁決が,適法とされた事例

 

裁判要旨

 出入国管理及び難民認定法50条1項に基づく在留特別許可は,退去強制事由が認められ退去させられるべき外国人について,特別に在留を許可すべき事情があると認めるときに,法務大臣等が恩恵的処置として日本に在留することを特別に許可するものであるところ,同法24条に列挙されている退去強制事由に該当する外国人には,自己を本邦に在留させることを法務大臣に求める権利はなく同法49条1項所定の異議の申出は,行政事件訴訟法3条6項2号所定の「行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求」には当たらないから,前記許可をすることの義務付けを求める訴えは,同項1号所定の非申請型義務付けの訴えであると解するのが相当である。

2 日本国籍を有する女性と約16年間にわたる共同生活を続けたガーナ共和国国籍を有する男性がした出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく異議の申出を棄却し,在留特別許可を付与しなかった法務大臣から権限の委任を受けた入国管理局長がした裁決につき,在留特別許可を付与するかどうかは,同法の目的とする出入国管理及び在留の規制の適正円滑な遂行というその制度目的実現の観点から,当該外国人の在留中の一切の行状,特別に在留を求める理由等の個人的な事情ばかりではなく,国内の政治,経済,社会等の諸般の事情及び国際情勢,外交関係等の諸般の事情を総合的に考慮して行われなければならないものであって,その要件の判断は,法務大臣等の広範な裁量を前提としているものと解されるところ,前記男性の生活は,18年間を超える不法残留という違法行為によって築かれたものであり,そのこと自体が退去強制事由に当たる上,在留期間経過後も不法に就労していた行為は,外国人の就業活動を制限しているわが国の在留資格制度を乱す行為であり,違法性は顕著であること,しかも前記男性は不法残留であることを隠すため,日本人と婚姻して在留資格を持っている友人の経歴を自分の経歴のように話して入国管理当局や警察官を欺いたこと等に照らせば,これらの点が在留特別許可を付与するかどうかの判断において重要視されることは極めて当然であるから,前記女性との関係を考慮に入れても,前記入国管理局長がした在留特別許可を付与しないとの判断は,事実的基礎を欠くものであるか又は社会通念上著しく妥当性を欠くものであるとは認められず,入国管理局長に委ねられた裁量権の範囲を逸脱し又はその濫用があったとはいえないとして,前記裁決を適法とした事例

全文

偏頗な判断というべきであって,裁量の範囲を逸脱又は濫用した違法があり,また,退去強制令書発付処分も違法であるとした事案。

事件番号

 平成28(行コ)68

事件名

 

裁判年月日

 平成29年3月16日

裁判所名・部

 名古屋高等裁判所  民事第4部

結果

 

原審裁判所名

 

原審事件番号

 

原審結果

 

判示事項の要旨

 韓国籍の外国人女性に対する退去強制令書発付処分等の取消請求事件において,当人の入管法49条1項に基づく異議申出に理由がないとした入管局長の裁決は,当人とその現在の夫(日本人男性)が婚姻に至るまでの長い経緯や真摯な夫婦関係の実質を見ようともせず,単に法律上の婚姻期間や同居期間の長短のみでしか夫婦関係の安定性や成熟性を考慮せず,当人を韓国へ帰国させることによる夫婦両名の不利益を無視又は著しく軽視し,また,当人が前の夫(日本人男性)から酷いDV被害に遭い,堕胎まで強要されたために,短期間で婚姻関係が破綻し,別居及び離婚を余儀なくされるなどしたことから,やむにやまれず長期の不法残留となったという深刻な事情を敢えて無視する一方で,不法残留期間の長さのみを特に重視し,かつ,姉の在留カードを一時的に借用したという軽微で起訴もされていない事実や,人道上非難に値しないようない就労の事実を殊更悪質視することによってなされた偏頗な判断というべきであって,基礎となる事実の評価が明白に合理性を欠くことにより,その判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるといえるから,裁量の範囲を逸脱又は濫用した違法があり,また,上記裁決を前提とした入管主任審査官の退去強制令書発付処分も違法であるとして,これら裁決及び処分を取り消した事案。

全文

日本人男性と婚姻関係にある女性について,在留特別許可をしない地方入国管理局長の裁決が取り消された事例

事件番号

 平成28(行ウ)354

事件名

 退去強制令書発付処分等取消請求事件

裁判年月日

 平成29年8月25日

裁判所名

 東京地方裁判所

分野

 行政

判示事項

 日本人男性と婚姻関係にあるインドネシア共和国国籍の女性について,出入国管理及び難民認定法50条1項に基づき在留特別許可をしないで同法49条1項の異議の申出には理由がないとした地方入国管理局長の裁決が取り消された事例

裁判要旨

 インドネシア共和国国籍の女性が,1回目の不法残留後に日本人男性と婚姻し,在留特別許可を受けて「日本人の配偶者等」の在留資格で本邦に在留していたが,離婚後,再度不法残留の状態となった後に別の日本人男性との再婚を届け出て不法滞在者であることを申告するため自ら入国管理当局に出頭したところ,不法残留の退去強制事由を認定され,口頭審理を経て,出入国管理及び難民認定法50条1項に基づく在留特別許可をしないで同法49条1項の異議の申出には理由がない旨の地方入国管理局長の裁決を受けた事案について,以下の(1)及び(2)などの事情の下では,同裁決に際して同女性の在留を特別に許可しないとした判断は,事実に対する評価が明白に合理性を欠くことにより社会通念上著しく妥当性を欠くものであったことが明らかで,同裁決には裁量権の範囲をこえ又はその濫用がある違法があったとして,これが取り消された事例
(1) 同女性は,前夫との離婚後,その在留期限の経過前に現在の夫と結婚の方向で話を進めていたが,在留期限前に再婚を届け出るには平成28年法律第71号による改正前の日本民法733条1項による離婚後6箇月の待婚期間が障碍となっていたところ,そのうち当時既に違憲となっていた100日を超えて再婚禁止期間を設ける規定部分がなければ,同女性の在留期間内に再婚を届け出ることが可能な法状態にあって,同女性が不法残留の状態となったことの責任をその個人的な都合のみに帰することは相当ではなく,その不法残留は,自ら出頭申告したという斟酌すべき事情を減殺して余りあるほどの重要な消極要素と評価されるべき悪質性に欠ける。
(2) 同女性の現在の夫との婚姻関係は,関係が醸成される過程もごく自然で再婚届出前の期間にも真摯に交際を発展させていったことが認められ,両名の家族ともすべからくその関係を祝福していたとうかがわれることや,強い精神的なつながりが認められることなど,届出から裁決通知まで1年4か月余りの期間にとどまり,いまだその間に子がなかったとしても,同裁決時において既に真摯で安定かつ成熟した婚姻関係であると評価すべき素地が十分にあったと認められ,暴力行為を背景に長くない期間で破綻した同女性の過去の婚姻関係とは質的に大きな相違があって,その過去の婚姻歴等から現在の夫との婚姻関係の安定・成熟性を推し量ることには慎重であるべき事情があったと解されるのに,同裁決に際してこの点が慎重に考慮された形跡がないとすれば,基礎事情の評価として合理的であるとはいえない。

全文